
2022年に厚生労働省がカスタマーハラスメント(以下、カスハラ)に関する定義や指針を発表したのを皮切りに、一般企業や自治体、警察などがカスハラ防止条例を施行するようになりました。中には、罰則規定を設けた地域もあります。

株式会社リンクが実施した調査では、75.3%が「電話応対時にカスハラを受けた経験がある」という結果が出ています。
カスハラが増加・労働問題化していることは明白です。そのため、コンタクトセンターにおいてカスハラ対策に未着手であることは、大きなマイナス要素となります。
この記事では、カスハラの一要因について分析し、AIによるアプローチの可能性と効果性について紹介していきます。
▼この記事が解決するお悩み▼
カスハラ対策を強化したいけど、顧客満足も従業員満足も諦めたくない
カスハラ発生時の対応だけでなく、抑止にも力を入れたい
カスハラの要因となる「二重苦」

カスハラにはさまざまな手口があり、その要因はさまざまです。「ただ嫌がらせをしたい」という悪質なものもあれば、悪意はなく、明らかな暴言や脅迫も伴わない「カスハラ未満」とも言えるケースも存在します。
対策が難しいカスハラが存在するからこそ、オペレータたちを確実に守っていくことは重要です。
コンタクトセンターが抱えやすい要因のひとつは、「顧客満足と効率化のトレードオフ」です。
これは、高品質な対応を求めるとコストや時間がかさみ、効率を重視すると顧客満足度が下がるというジレンマのことで、まさに「二重苦」であると言えます。
AIによる自動応対が本格導入される中、AIとの差別化やロイヤルティ獲得を目的として、有人対応のクオリティアップは重要度を増しています。その反面、各顧客にパーソナライズした丁寧な対応は、業務効率やコストを圧迫する一要素となりかねません。コストや時間の圧迫は、センターにとって痛手となる上、放棄呼の増加につながりやすく、顧客満足度の低下に直結します。
現在のコンタクトセンターにおいては、オペレータ不足や「迅速なサポートと解決」といった顧客ニーズの高まりなどを背景として、業務効率アップも必要不可欠です。とはいえ、業務効率を重視しすぎると、早く切電することに意識が向いてしまい、お客さまの不安やニーズを十分にヒアリングできなかったり、お客さまを焦らせてしまったりして、顧客満足度を低下させるリスクがあります。
「顧客満足と効率のトレードオフ」という課題は、顧客満足度低下につながりやすく、カスハラの要因となり得るものであると言えるのです。
カスハラ要因へのアプローチ

「コールセンタージャパン2025年5月号」では、カスハラに関する独自調査の結果がまとめられています。カスハラの現状として「『バカ』『頭が悪いのか』といった暴言が非常に多く見られる」と指摘していました。続いて同紙では、カスハラの原因として「対応の手順やスクリプト、マニュアルといったナレッジが『イケていない』のと、コミュニケーションの教育不足」を挙げています。
「コミュニケーションの教育不足が原因と言われても、顧客対応に関するロールプレイングや、SVによる応対指導やサポート、分析などは実施しているのに…」と思うSVやマネジメント職の人は多いかもしれません。
この記事では、2つのカスハラ要因へのアプローチとして以下が提案されています。
- 幅広い教育:商品・サービスに関するものだけでなく、法律や商慣習などの知識を含む
- オペレータ個人がもてる権限の委譲:柔軟性のある対応を可能にする権限
これらの課題と対策は、まさに「顧客満足と効率のトレードオフ」と深く関係しています。現場で活用できるナレッジが整備されていないと、応対品質がオペレータ個人のスキルに依存しやすくなり、顧客対応のパーソナライズが難しくなったり、応対時間が長くなったりします。
一方、ナレッジが充実していても、オペレータのコミュニケーションスキルが不足していると、正確性や信頼性に欠けた情報を伝えてしまったり、顧客満足度が低下したりするでしょう。
くわえて、オペレータ個人が持てる権限が少ない場合、すべてにおいて上長やSV、センター長への確認作業が必要となり、工数増加と業務効率の低下リスクが増加します。
AIでオペレータをカスハラから守る

ここまでで、カスハラの根幹になりがちな要素を考慮してきました。これらへのアプローチとして高い可能性を期待されるのが、AIによるオペレータ応対支援システムです。
「Bright Pattern」のオリジナルAI機能「エージェントアシスト」を例にして、カスハラ対策としてのAIの可能性を探ってみましょう。
AIでリアルタイムサポート
「エージェントアシスト」では、AIがリアルタイムでオペレータのコミュニケーションを分析し、適切な回答やアクションを提案・サポートします。現場の声を反映した実用的なナレッジを活用できるので、迅速な問題解決を促しつつ、応対品質の平準化を期待できます。
さらに、通話内容の自動要約機能もあります。AIが通話内容を要約してくれるので、オペレータの後処理時間や負担の軽減が見込めます。後処理業務は、顧客との直接的なコミュニケーションが伴いません。そのため、顧客応対に一切の影響を出すことなく業務効率化をはかれます。
くわえて、AIによって応対履歴の情報品質を一定レベルに平準化することが可能です。これにより、過去の応対履歴を検索・分析しやすくなり、応対ミス抑止や効果的なオペレータ教育へと活かしていけます。
カスハラ対策として前述した「オペレータへの権限委譲」ですが、「クレームや無理な要求などにつながりそうで怖い」「権限を委譲するとしても、リアルタイムでのモニタリングと適切な対応はできるようにしておきたい」といった不安が拭えないかもしれません。
「エージェントアシスト」なら、SVが進行中の会話のリアルタイム文字起こしを見ることができます。テキストベースで会話の流れを正確に把握していけるので、音声ベースでのモニタリングよりも迅速かつ的確なサポートが可能です。
オペレータ個人で判断させたくない内容についても、SVがスピーディーに把握・対応することで、顧客との会話を一時中断して確認をとるなど、お客さまを待たせたり、顧客対応が二転三転したりといったリスクを避けやすくなります。
株式会社コロプラの先例は、オペレータへの権限委譲がカスハラに対する有効策であることを示しています。同社では、「自分だったらどういう対応をしてほしいか」という視点でオペレータに検討してもらい、一定の権限委譲と、権限とセットになるスキルに関する研修体制を強化しました。約半年が経過した現在では、カスハラ案件は大幅に減少しているといいます。(参考:「コールセンタージャパン2025年4月号」)
ある程度の権限を個人に付与しつつ、それをオペレータと企業の双方にとって安心安全に活用していく上では、オペレータ教育の強化やリアルタイムでのサポートは必要不可欠でしょう。
カスハラ対策だけじゃない「エージェントアシスト」の効果

ここまで紹介してきた「エージェントアシスト」は、カスハラへのアプローチになるだけでなく、以下のようなさまざまなメリットをもたらすAI機能です。
顧客満足(CS)向上
エージェントアシストにより、応対品質とスピードを兼ね備えたカスタマーサポートが提供されるので、第一に顧客満足度向上が見込まれます。
従業員満足(ES)向上
カスハラ抑止・減少により、オペレータにとって大きなストレス要素を抑えられます。より効率よく的確に顧客応対を行っていけますし、顧客から感謝されるので、業務負荷も軽減され、総合的な従業員満足度向上が期待できるのです。
売上向上や離職防止
業務効率や顧客満足度アップの効果性は、売上向上として可視化されます。また、従業員満足度の維持向上は、オペレータの定着率と離職防止に効果的です。
最後に
カスハラ対策は、「ESかCSのどちらを優先するか」を問われる難しい分野です。とはいえ、可能な限りどちらも諦めたくありません。
「エージェントアシスト」は、どちらも重視したいコンタクトセンターの皆様のお力になります。AIによるトレンド分析など近日リリース予定の新機能を含め、気になる点や不安な点など、ぜひ弊社までご相談ください。