CXとEXの狭間で(1)― CXが「今」とっても大切である背景と3つのポイント

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モノよりコト

はじめて補助輪なしで自転車に乗れたとき。はじめて80センチオーバーのシーバスを釣り上げたとき。はじめて車を運転して今まで来たことのない場所まではるばるやってこられたとき。趣味でやっているバンド演奏ではじめてハーモニーがうまくいったとき。

体験」が私たち人間に与える影響は多大です。特に、多感な時期の経験が、その後の人生を決めるということがあるくらい、「体験」というのは非常に大きな意味を持っています。ビジネスの世界でもそれは同じで、そこでした体験がとても良かったから「リピーターになった」「その店のファンになった」「そのブランドを使い続けている」という人は多いでしょう。確かに、「モノを買う」から「買うときのプロセス」および「買った後の経験や体験」に意識や重きを置く時代になってきている。

その背景としてまずシンプルに考えられるのが、「モノが周りにあふれていると言う状況」が挙げられます。スマホが普及し、欲しいものはお金さえあればすぐに数タップで買えてしまう時代。しかもモノのスペックや質が少々良いくらいでは驚かない今時の消費者。それよりも、例えばそれを購入するときに「サプライズ」があったか、購入した後に「かゆいところに手が届く」サービスだったか。そこに意識や価値観がシフトしているのです。

また今の時代、「サービス」が人々に提供する価値も、「モノからコト」へシフトしています。例えば、車のレースを見に行ったとします。これまでは、「走っているレーシングカーを見せること」がサービスでした。しかし、今やサーキットでは、レーシングカーのコックピットに乗れる体験型イベントが開催されていたり、そこでしか食べられないグルメや地ビールを味わえたり、駅から遠く離れていても何本ものチャーターバスですぐにサーキットへ向かうことができたり… もともとの「車の競争を見せる」というところから、「サーキットで楽しい一日を過ごすことができる」という体験をビジターに楽しんでもらう。サービスはものからコト(またはトキ(時))思考をベースに、その定義が大きく変わってきています。

当たり前にそこにあった「体験」が今まで自分たちにどれほどのものをもたらしていたのかを見直す契機となったこのコロナ禍で、こうした流れはますます加速していくであろうと思えるのも不思議なことではないはずです。

なぜ今、CXが大切なの?

人々のマインドが「モノよりコト」へ大きくシフトしている今、顧客との接点を多重に持つコンタクトセンターにとっても、「モノよりコト」思考を当てはめて考えてみることはやはり重要なポイントでしょう。それぞれのチャネルやタッチポイントで優れた体験を提供できてこそ、顧客満足度と顧客体験の向上につながります。

プラス、CX向上をなぜ今考えるべきかについての理由を三つほど、以下に挙げさせてください。過去のエントリでも強調されている点ではありますが、もう一度だけ。

1. 体験は(良くも悪くも)記憶に残る

「良くも悪くも」体験は頭と心に残ります。そしてその体験を繰り返すと、それが当たり前になってしまう。

例えば、トイレットペーパーの買いだめってまだ記憶に新しくないですか?何だかんだで並んでしまったドラッグストア。たかがトイレットペーパーのために(周りの皆が並んでいるから?)長い時間並び、自分の番が来たら売り切れ。「在庫ないのかよ?」という怒号が飛び交う店内。そんな劣悪な顧客体験だとしても、最終的に人々はそれをデフォルトとして受け入れてしまう。

でもそこへ、「トイレットペーパーは売り切れません、いつでもどうぞ」なんて店舗が現れ、向かってみたら行列はないわ、店員はニコニコ親切顔だわ、「どうぞどうぞ2パックでも3パックでも」と購入制限もまったくない。そんな優れた顧客体験ができたら、人々はそっちへ吹っ飛んでいきますよね。優れたCXとは砂漠の中のオアシスのようなもので、自分を大切なお客様として丁寧に扱ってくれるとわかれば、人々は皆そこに密集するわけです(密は避けるべしですが)。

2. 実地訓練

コロナ禍はある意味、CXの重要性を再考し向上させるのに最適な環境・タイミングでした。ここ日本でもワクチン接種の話がちらほら出始め、各自治体でコールセンターなどの立ち上げも目立ってきています。でもまだ第三波や四波がないとも言い切れない。でも大丈夫。このタイミングでCXに投資し、向上しておくことで、万が一大型自粛規制が再度要請されたとしても、CXを損なわずに事業を継続するための備えができます。

3. 「品定め」に最適なタイミング

このコロナ禍で、様々なベンダーが多岐にわたるソリューションやソフトウェアを、低コストで試用できるトライアルサービスを展開しています。中には、導入期間が非常に短く、わずか2週間ほどで試用を開始できるソリューションも。今こそ足りなかった機能や、最適化されていないそのシステムに替わる最新のソリューションをテストするのに絶好の機会です。

当お役立ち情報でも「これでもか!」という勢いで「CX向上」を猛プッシュしているのは、そうするだけの価値があり、そうすべきだと考える十分な理由があるからです。

ロイヤルカスタマーやリピーターの獲得。「この会社が好き!」という、ファンを獲得できる。口コミ効果。信頼関係ベースのファンによる口コミ効果は、企業にとって指数関数的に増大するメリットをもたらします。顧客離れを防ぐこともできるし、競合との差別化を図ることもCX向上に集約される。しっかりと取り組みたいところです。

CX向上を目指す上で大切なのは、やはり自社のニーズに合ったソリューションを的確に選ぶことですが、次のエントリではちょっと別の視点からCX向上を見ていきたいと思います。CXの向上を見据えたときに、EXの向上も密接に絡んでくるのでは?という。「EXって何よ?」という問いも含め、次回は題して、「(CXを向上するための)EX向上」論

乞うご期待です。