感染症のパンデミックや自然災害・・・何が起きても不思議でないこのご時世。
危機管理に欠かせない事業継続対策としてまず挙げられるのが、リモート化です。
先回のエントリでは、業務のリモート化に関する4つの課題、そしてAIは気軽に始められる技術であるという点をご紹介しました。
今回は、コールセンターのリモート化と課題のクリアに役立つ6つのAI活用法から、3つほどをご紹介したいと思います。
1.セルフサービスの強化
AIを最大限活用する方法の一つとして、セルフサービスの強化が挙げられます。 AI型のセルフサービスでは、音声やテキスト分析を活用することで無駄のないカスタマージャーニーを構築し、問題をより迅速に解決することができます。
対話型IVR(会話型IVRとも呼ばれる)は、AIを活用したセルフサービスの一つです。従来のIVRが、決まったメニューを読み上げて顧客をナビゲートするのに対して、会話型IVRは、顧客が話した言葉をAIが理解しそれに合わせてサポートを行います。顧客は自由に自分の言葉で話し、その意図をAIが理解して、最適なリソースにルーティングします。
また、対話型インターフェースを使用して基本情報の収集とトリアージを行い、それをオペレータに渡すことで、カスタマージャーニーをさらにスムーズにすることもできます。
AIをセルフサービスに活かす別の方法は、チャットボットです。活用方法さえ間違えなければ強力なツールになりえるチャットボット。簡単な問い合わせのトリアージを行い、難度の高いやり取りにオペレータが注力できるような使い方ができれば、コストの削減につながります。また、24時間365日稼働できるボットは、すぐにお客様に対応できるというのも強みです。
オムニチャネルプラットフォームを使用すれば、ボットと人間がワンチームとして協働できます。ボットからオペレータへのシームレスな移行が可能になるこのアプローチにより、オペレータの生産性が向上し、よりパーソナライズされたエクスペリエンスを創出できるようになります。カスタマーエクスペリエンスに存在するサイロの解消に効果的です。
新型コロナウイルス感染拡大による現在のような不安定な状況では、呼量が急増し、通話フローやオペレータの生産性に与える大きな影響が懸念されます。そうした中で頼りになるのが、チャットボットやAIを活用した対話型IVRといったセルフサービスの新技術です。こうした新たな技術を導入することで呼量を管理し、通話フローを合理化できるようになった結果、顧客は適切なリソースにすばやくアクセスできます。オペレータもより効率的に顧客対応が行なえるというわけです。
セルフサービスの技術を活用すれば、発信者は延々と待たされることなく、最適な部門、最適なオペレータへ直接接続できます。増え続ける待ち呼を管理するのにこれほど優れた技術はありません。
2.人間とAI、得意分野を活かしたコラボレーション
せっかくAIを導入するのであれば、最先端技術を!と考える傾向が企業にはあります。ところが、導入方法を間違えてしまうと、AIがカスタマーエクスペリエンスの断絶を引き起こしてしまい、顧客にかえって不満を抱かせてしまう恐れも否めません。
その一例が、かつて多くの企業がこぞってWebサイトに実装したチャットボットです。初期のチャットボットは非常にシンプルなもので、基本的な質問に答えたり、適切な情報源に顧客を誘導したりすることを目的としていました。ところが、顧客とオペレータ間に入り込むチャットボットにより、カスタマーエクスペリエンスが分断されてしまい、この時期に導入されたチャットボットの多くは、顧客離れを引き起こした戦犯としてお役御免となっています。
つまり、オペレータの前に立ちはだかってしまうチャットボットは、スムーズであるべきカスタマージャーニーを破壊してしまったため、オペレータとの直接帯を望んでいる多くの顧客にとって、邪魔な存在となってしまったわけです。
そこでおすすめしたいのが、人間とボットによるコラボ支援としてAIを導入することです。一次対応としてのセルフサービスや顧客へのサポートにAIを使用してみる、という形です。問い合わせの一次対応をボットが行なうことによって、簡単な問題ならその場で解決できますし、AIボットの自動判断により、最適なオペレータに顧客をルーティングすることができます。
その際にオムニチャネル技術を活用すれば、ボットが取得した顧客データを簡単にオペレータに転送できるので、顧客による個人情報の送付を繰り返す必要はありません。顧客自身がチャネルを変更した場合でも同じです。コンテキストデータがすべて保存され、オペレータに表示されるので、インタラクションが中断されることは一瞬でもありません。
これこそまさに、パーソナライズされたカスタマーエクスペリエンスです。
チャットボットが任意のチャネルのオペレータに自動でルーティングできるようになると、バラバラだったカスタマーエクスペリエンスがシームレスでスムーズになります。なおかつ、顧客側に無用なストレスを感じさせることなく、顧客満足度を高めることが可能となります。「人とAIのコラボ」というアプローチでは、基本的な問い合わせへの回答やインテリジェントなルーティングをAIに任せられるため、急増するワークフローを軽減するとともに、待ち呼管理を効率的に行うことができます。
専門家の言葉:クラウドコンタクトセンターソリューションとBPOのパイオニアであるアメリカのコンジットグローバル社でクラウドコンタクトセンターソリューション担当VPを務めるCasey O’Brien氏
「“カスタマーエクスペリエンスの効率性と有効性に加えて、オペレータの応対能力をも向上させるにはどうすれば良いか?”と尋ねられたら、私の答えは一つです。
“それならAIですよ”おすすめは、
①AI+チャットボットで回答例を提案
②自然言語理解での感情分析
です。音声やチャットのやり取りをAIがリアルタイムで分析して回答例をオペレータに提案してくれれば、オペレータは重要な関連情報をその場で顧客に提供できます。オペレータには顧客対応が容易になるというメリットが、企業にとってはネットプロモータースコア(NPS)と顧客満足度が向上するというメリットがあります。
また、AIでリアルタイムの感情測定を行なえば、スーパーバイザーの注意が必要となるインタラクションにフラグを立てることができます。これによって、難易度の高いインタラクションの迅速かつ効率的な処理、こうしたインタラクションにうまく対応できたオペレータに賞与を与えるといったこともできるようになります。」
人間の仕事を奪う脅威として語られがちなAI ですが、それぞれの得意分野を活かしてチームとして協働させる「コラボレーション」的使い方、これが第三次AIブーム成熟期における賢いAI使用法の一つです。
3.オペレータ業務のサポート
顧客の口調や言葉遣い、会話内容などの分析を通じて、顧客の気分や感情を測定する感情分析やテキスト分析を使えば、AIは顧客対応中のオペレータでさえもサポートできるようになります。
最近のAIの分析機能には目を見張るものがあります。たとえば、IBM Watsonの認知テクノロジーは、自然言語を理解するための一連のAPIとサービスで構成されており、8つの異なる言語で感情を処理および分析することもできます。
こうした分析機能により、AIは顧客の今の気分をオペレータに伝えたり、どう返答したらよいか提案したりすることができます。返信例やテンプレートなどを使用してナレッジコンテンツを作成すれば、応対精度や効率はさらに向上します。感情分析やテキスト分析を使えば、問題が起きそうなインタラクションをリテンション施策担当者や専門オペレータに適切にルーティングできるようになります。
オペレータアシスト機能にAIを実装して、導き出された顧客感情に基づいて応答例を提案できるようにすれば、ワークフローの合理化や、急増する呼量への対応が容易になります。迅速に問題解決できるようになればオペレータの労力が軽減されるだけでなく、カスタマージャーニーの流れに沿った迅速な動きが取れるようなサポートを受けられるので、顧客にもメリットがあります。
このように、AIを活用したオペレータ支援は、リモートワーク中のオペレータの管理で生じうるハードルを克服する優れた方法と言えます。
専門家の言葉:マーケティング分野、特に革新的なベンチャー企業のマーケティングにおいてその手腕を評価されているBright Pattern マーケティング担当上級Vp Ted Hunting氏
「“測定なくして改善なし”です。
実際、当社がアメリカのビジネスコンサルティング会社Frost&Sullivanとウェビナーを実施したのですが、同社のグローバルVPで本ウェビナーの登壇者でもあるAlpa Shah氏は、”ビジネスの至上命題であるカスタマーエクスペリエンスの向上を差し置いて、皮肉なことにほとんどの企業では、すべてのインタラクションで品質測定が行われていないのが現状だ“と語っています。品質測定が実施されているのは、大抵の企業で音声チャネルのみです。実質デジタルチャネルは見過ごされており、測定されているはずの音声チャネルでも、ふたを開けてみれば全インタラクションの1%未満しか測定されていないというのが実情です。
AIなら、こうした乖離を埋められます。
AIはすべてのチャネルにおいて、すべてのインタラクションの感情を100%測定し、オペレータの所在地に関わりなくリアルタイムで測定結果を提供できます。スーパーバイザーは、感情数値の低いインタラクションを検索してその記録を確認し、オペレータを評価・採点することによって、問題が大きくなる前にオペレータのパフォーマンスを改善する予防的なコーチングを行なえます。」
顧客満足度の向上だけでなく、オペレータ支援さらにはオペレータの離職率低減に、AIの感情分析を活用しているコールセンターも増えています。ストレスを誰かに相談したり、気持ちをオープンに表現したりすることが苦手な日本人にとっては、必須の機能といえるかもしれません。
この記事では、AIを活用してリモートコールセンターの
- セルフサービスを強化し
- 人とAIのコラボレーションを図り
- オペレータのサポート
を行なえるということをお伝えしました。
PCや家電でも同じですが、最先端技術それすなわち自分に最適ということではありません。まずは、自社の業務や課題にぴったりはまる使い方をピックアップして導入し、それから徐々にその範囲を広げていくのが賢いAIの使い方です。
コールセンターのリモート化における賢いAI活用法、残り3つ。次回のエントリでご紹介します。
お楽しみに。