
「慢性的な人手不足」「高い離職率」「上昇し続ける教育コスト」…。これらは、多くのコールセンターが抱え続ける根深い課題ではないでしょうか。
この課題に対し、多くの企業が「音声認識(Speech-to-Text)」を導入し、通話の書き起こしや分析による業務効率化を進めてきました。しかし、それはオペレータの業務を補助する「対症療法」であり、人手不足の根本的な解決策とまでは言えません。
もし、AIが単にお手伝いをするだけでなく、顧客と「自然に会話し、問い合わせを自己解決まで導ける」としたら、ビジネスはどのように変わるでしょうか。
本記事では、その答えとなる「S2S(Speech-to-Speech)のAI自動応答システムを搭載したAIエージェント」と、そのデモ動画を通じて、次世代のコールセンター運営の姿をご紹介します。
S2S(Speech-to-Speech)とは

S2S(Speech-to-Speech)とは、音声を一度テキストに変換せず、音声のまま理解・生成するAI技術を指します。
従来の「STT-LLM-TTSパイプライン」では、STT(文字起こし)→LLM(内容理解・回答生成)→TTS(音声合成)のための3つのモデルを個別に使用し、各モデルでの出力を次のモデルに渡す処理をアプリケーションで行っていました。しかし、S2Sはそれを単一のモデルですべて処理し、音声のまま理解・生成を行えるのが大きな特徴です。
これにより、応答速度が大幅に短縮され、より自然な会話体験が実現できます。
データで見るコールセンターの現状とAIへの期待
なぜ今、高度なAI技術が求められているのか、客観的なデータから見ていきましょう。
国内のコールセンターサービス市場は1兆円を超える巨大な市場(矢野経済研究所)ですが、その最前線は深刻な人手不足に直面しています。この状況を打破すべく、AI活用への需要が急速に拡大しています。
事実、コールセンター向けのAIサービス市場は年平均30.8%という驚異的なペースで成長しており、2028年度には250億円規模に達すると予測(矢野経済研究所)されています。
とくに、電話応対を自動化する「AI自動応答」や「ボイスボット」への期待は大きく、その市場は2027年度には88億円規模まで成長する見込み(ITR調査)です。
これらのデータが示すのは、単なる業務効率化ツールではなく、人手不足という構造的な課題を根本から解決しうる「自律した会話型AI」が、今まさに求められているという事実です。
【デモ動画①】S2Sを使ったAI自動応答はここが違う!
「AIとの会話は、機械的でスムーズにいかないのでは?」。そう思われる方も多いかもしれません。まずは、実際のデモをご覧ください。
コールセンターで「宅配便の再配達」を受け付ける対応を想定したシナリオです。お客さまからの入電にAIエージェントがS2SのAI自動応答システムを使って対応しています。
デモ動画のシナリオと簡易的な構成図は下記のとおりです。

このデモは、弊社の「リアルタイムコミュニケーション (RTC) プラットフォーム」と、Bright Pattern Contact Center(BPCC)を連携させた環境で、S2Sモデル「gpt-realtime」をベースに構築されています。
※弊社の「リアルタイムコミュニケーション (RTC) プラットフォーム」は、Bright Pattern Contact Center(BPCC)以外のコンタクトセンターシステムとも連携可能です。
<開発者より一言>
このデモで見ていただきたいのは、単なる会話のスムーズさだけではありません。AIエージェントは裏側で、コールセンターの実業務に即したロジックを正確に実行しています。
お客さまの発話内容から適切なIVRのルートを判断し、情報が足りなければ自ら「更問い」を行います。そして、自己完結できる問い合わせはその場で回答し、複雑な内容は人間のオペレーターへ転送(HITL)するなど、状況に応じた最適な判断を自動で行っています。
会話の中から不在票番号や再配達希望日時といった重要項目をリアルタイムで抽出・記録できるのも、後続の業務を効率化するための重要なポイントです。
※再配達希望日時を尋ねた際、お客さまの「明日」という返答を「年月日」に自動で変換しています。
一見すると「リアルタイムでサクサク会話ができるAI」ですが、このデモの「本当の価値」は、その裏側にあるS2SのAI自動応答技術にあります。
【高精度】リアルタイムS2S × RAGによる「正しい」回答
一般的なS2Sのデモは、ChatGPTのようなAIの地頭だけで会話をするため、学習していない内容を質問されると、事実に基づかない回答(ハルシネーション)をしてしまうリスクを常に抱えています。
しかし、弊社のAIエージェントは違います。
S2Sの高速な応答性を維持したまま、社内の「製品マニュアル」や「FAQ」といったナレッジを正確に参照して回答を生成するRAG(Retrieval-Augmented Generation)という技術を組み込んでいます。
これにより、AIは「知っている情報だけを、根拠に基づいて正しく」話すことが可能になります。企業のコンプライアンスが求められる顧客対応において、これは重要なポイントです。
<開発者より一言>
Voice AI Agentに求められるのは、「自然さ」と「正確さ」だと思います。
従来の「STT-LLM-TTSパイプライン」は、テキストをアプリケーション側で自由に操作できるため、RAGによる正確さを実現しやすいものの、会話のやりとりにどうしても遅延が発生してしまいます。それで、自然さという点では課題があり、「いかにも機械が対応している感じ」という印象を与えてしまっていました。
一方S2Sモデルでは音声を直接処理するため、会話が非常にスムーズで、話の途中での割り込みへの対応も柔軟に行えます。しかし、会話テキストがモデル内部で処理されるので、RAG構築の自由度や回答の正確さが挑戦となっていました。
今回のデモでは、S2Sモデルを使いつつ、RAGの仕組みも実装することで、「自然さ」と「正確さ」の両立がある程度実現できています。
【デモ動画②】セキュリティとCX向上に配慮したAI自動応答
AIエージェントに顧客対応を任せる際、「悪用されないか」「オペレータへの引き継ぎはスムーズか」など、不安に思う方もいるでしょう。
弊社のS2SのAI自動応答システムを搭載したAIエージェントなら、その心配は不要です。次の家電コールセンターバージョンのデモをご覧ください。
このデモで注目したい特徴は2つあります。
特徴1:【安全性】鉄壁のセキュリティ
顧客情報を扱う上で、セキュリティは最も重要な要件です。
デモでは、顧客を装った人物が悪意ある質問で個人情報を聞き出そうとします。しかしAIエージェントは「プロンプトインジェクション」をしっかりとブロックし、機密情報を守ります。
企業の信頼性を損なうことなく、安心して顧客対応を任せられる設計になっています。
プロンプトインジェクションとは:AIに与える指示(プロンプト)に悪意のある命令を紛れ込ませること。AIの出力を意図的に操作するサイバー攻撃手法のひとつです。
特徴2:【CX向上】オペレータへの引き継ぎもスムーズ
コールセンターで最も顧客満足度を下げると言われるのが「担当者への引き継ぎ時の、同じ説明の繰り返し」です。弊社のAIエージェントは、この問題を根本から解決します。
動画でご覧いただいた通り、AIが対応した案件を人間のオペレータに転送する際、「BPCC」のオペレータ画面に、これまでのAIとお客さまの会話の要約が瞬時に表示されます。

これにより、オペレータは「どのようなご用件でしょうか?」と聞き返す必要は一切ありません。
「〇〇様、△△の件でお困りとのこと、承知いたしました。」と、状況を完全に把握した上で、スムーズに応対を開始できるのです。
これは顧客体験を劇的に向上させると同時に、オペレータの対応時間(AHT)短縮にも直結します。
<開発者より一言>
通話の全履歴(STT)はデータサイズが大きいため、あえて要点のみを送信することで、確実かつ高速な情報連携を担保しています。もちろん、お客さまの環境やご要望に応じて、データベースを経由して全履歴を引き継ぐなど、柔軟な実装が可能な点も私たちの強みです。
なぜ「RAG搭載のS2S」が次世代標準となるのか?
このデモで示した技術は、コールセンターに大きな変化をもたらします。
- 顧客満足度の劇的な向上
IVR(自動音声応答)の煩わしいプッシュ操作はもう必要ありません。
人間と話すような自然な会話と、待ち時間のない即時応答が、これまでにない顧客体験を生み出します。 - オペレータの負荷軽減と人材不足の解消
一次対応や定型的な問い合わせをAIに任せることで、人間のオペレータは、より高度な判断や共感が求められる“人にしかできない業務”に集中できます。
24時間365日、常に均一で高品質な対応を提供し、新人教育のコストと時間も大幅に削減します。 - 企業の信頼性向上
RAGによる正確な情報提供と、個人情報を漏らさない堅牢なセキュリティで、企業のブランドイメージと信頼性を守ります。
最後に:コールセンターは「コスト」から「価値創造」の拠点へ
これからのコールセンターにおけるAI活用は、単に音声をテキスト化するだけでは不十分です。
以下の3つを満たしたAI活用が必要となります。
- リアルタイムの会話能力
- RAGによる情報の正確性
- 人間との柔軟な連携
この3つを兼ね備えているのが、弊社が開発した「S2SのAI自動応答システムを搭載したAIエージェント」です。
このAIエージェントこそが、コールセンターを単なるコストセンターから、顧客価値を創出する拠点へと変えるカギになると、私たちは確信しています。
この次世代の対話AIを、あなたも体験してみませんか?
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